西園寺解明クラブ







「新城が襲われた?」
「何そのうさん臭さ」

ぐっと拳を握り睨み付けると、部長・西園寺はいや、と目を離した。

「ちょっとビックリしただけ・・」
「驚いたのはこっちよ!いきなり羽交い絞めにされたと思ったら抵抗するなって・・ナイフよ!ナイフ!」
「それでどうしたの?」
「抵抗するに決まってんでしょって言って回し蹴りお見舞いしてやったわよ!」
「さすがは空手道場の跡取り娘」
「そんなこったろうと思ったよ・・」

 はやし立てる男子学生・森塚を横目に、西園寺はくくくっと小さく笑った。
転んでもタダでは起きない負けず嫌いに加え、新城は自身も空手初段の腕を持っている。
襲った相手が悪かったと言っても過言ではない。

「だけど物騒になったね〜。うちのガッコの生徒にまで手を出すようになったんだ?」
「校長が何の会見も開かないからね。彼らもどこに憂さ晴らしをして良いか迷ってるんだよ」
西園寺は涼しい顔で言うと揃った部員の顔を見てふと声をあげた。

「泰生はまだ?」
「来てないけど・・」
「嘘!まだ来てないの!?あそこカギ閉めちゃった・・」

 うわー可愛そう、と大瀬。あそこというのはこの学校で唯一出入りのできる窓のことだ。 通常なら本館にある下駄箱で登下校をするのだが、夏休みに加えなんせこの非常事態に学校側は門を固く閉ざし、マスコミ、保護者をはじめ学校の生徒ですら入ることを禁じている。 この期間、出入りを許されているのは諸教師と事件の中心である校長たちだけ。
 今はいないが隆介と大瀬が偵察に行ったときは、大人はそれぞれ合鍵を持っており、正面玄関を通る度に開閉をしているようだった。 カギを持たない部員が唯一の玄関としているのが、下駄箱からちょうど真裏にあたる焼却炉の近く、体育館からグラウンドに抜ける雑草のパラダイスとなっている空き教室の窓。 1階の校舎の中で、開けても警備アラームの鳴らない窓である。 最近までカギが壊れて閉まらなかったのだが、事件を機に新しく付け直したらしい。 だがアラームの再施工には相当なお金がかかり、かつたったこの1枚のためにやり直すはずがないという西園寺の読み通り、ここだけは開閉が可能のままになった。
 南校舎3階の部室に行くには、この窓から校内に入り、多目的室3を抜け、すぐの階段を2階で止まり、 南校舎への渡り廊下をしゃがみながら歩く。 3階まで上がってしまった方が近道なのだが、屋根のない渡り廊下はさすがに危ない。 外で見回りをしている職員がいたら、一発で見つかってしまうだろう。 南校舎に入ったら階段をあがり、奥にある部室に入ればいいのだ。

「あ・・あたし開けてくる!」
「僕も行くよ」

 もしかしたら今頃締め出しを食らっているかもしれない。 新城と森塚が部室を出た。 からりとも音を立てない(西園寺が改造した)ドアを開け、夕焼けに染まる廊下を走る。

「ごめん付き合わせちゃって」
「そろそろ見回りの時間だからね。ちょっと心配なんだ」

森塚は付き合いが良い。去年は違うクラスで、部活発足の時に初めて会話らしい会話をしたが、第一印象は静かな男だった。 今年は幸運にも部員全員が同じクラスで、常に一緒にいるメンバーとなった。 どうして森塚みたいな(少し天然の入った)真面目な男子学生が、西園寺みたいな変なことにだけ頭の回るバカと手を組むことのなったのだろう。新城には未だに分からなかった。 葛木(泰生の名字)はいつも竹刀振り回して教師に叱られていたから、何となく教師に仕返しのようなものをしたかったのだろう。 でも森塚は海外短期ホームステイの経験のある優等生だ。  いや、優等生といえばやっぱり西園寺だろう。トップほどではないが、いつも成績は両手に入るんだとか。しかしヤツは人を見る。自分に害をもたらしそうな人間、それがたとえ教師でもクラスメートでも、派手にならない程度に潰していく。 成績も10番に甘んじているのは目立たないためらしい。(森塚談) 一方で新城と大瀬は中学以来の友達だ。  西園寺クラブに入るきっかけとなったのは西園寺の新城への勧誘だったが、意外にも大瀬はクラブの存在を知っていた。 元々西園寺には何かあると思ったと言っていたが、西園寺は大瀬の勘の鋭さと好奇心の旺盛さを買い、部員として認めた。 かくいう新城は空手の腕だけではなく、西園寺、大瀬、葛木といった直情型のストッパー役として森塚と共に抜擢されたようだ。 以上5人のメンバーが西園寺解明クラブの全部員である。全てこの高校の2−E。

「新城」

 名前を呼ばれて我に返った。例の窓がある教室の前。森塚を見れば指で中を指している。 その顔から何かあったんだと察知し、新城はそっとドアから顔を出した。 真夏の夕時の日が差す窓の外、少し離れた所に立つ背の高い男子生徒。言うまでもない。葛木泰生だ。 彼の横に立ち何かを喋っている大人の姿があった。あれは確か管理人の男だ。

「ちょっと遅かったね」
「泰生大丈夫かな・・」

 不安がる新城をよそに森塚は大丈夫だよ、と軽く返した。 しばらく様子を見ていると、10分程で管理人は去り、葛木はぺこりとお辞儀をして、一瞬だけこちらを見てから去っていった。それが合図だったかのように腕時計を見る森塚。 5分経ったところで、声を上げた。

「行くよ新城」

 うん、と言いながら低姿勢で走り、外に見回りのひと気がないのを確認してから窓のカギを開ける。 からりと乾いた音が鳴り、どこかに隠れていたのだろう、葛木が姿を現し、窓枠から教室に入って来た。

「さんきゅ、2人とも」
「ごめん泰生・・閉めたのあたし」
「早く戻ろう。西園寺に報告しなきゃ」

駆け足で部室へ戻るすがら、そういえば、と森塚が声を上げた。

「泰生、さっき先生に何て言い訳したの?」
「竹刀忘れたから取りに来たんだけど、やっぱダメですかって引き下がった。 バカな管理人で良かったぜ・・」
「はっきり言っちゃダメでしょ」

 そういう新城も笑っている。所詮部員にとって今の大人は目の敵でしかない。丸め込まれるフリをして丸め込むのだ。 やがて着いた部室のドアを開けると、大瀬と西園寺が机の上の紙に書き込みながら何かを話していた。

「あ、泰生!おはよー」
「随分遅かったね」

 笑みを浮かべる大瀬とまた異なった笑みを浮かべる西園寺。 頭の回転の早い西園寺は、既に何かあったことを勘付いたらしい。 悪魔の笑みを浮かべる今の西園寺に理由を話せば、神の怒りを買うのと同じようなもの。 とても恐ろしくて口の出ない新城と葛木を見かねて森塚が報告を買って出た。

「管理人に見つかったんだ」
「3人とも?」
「いや、外にいた泰生だけ。竹刀を忘れたって言って誤魔化したみたい」
「・・まぁ心配はないと思う。あいつは頭がカラだからな」

 満更でもない様子の西園寺。部員が揃ったのを確認すると、向かい合わせの席に座らせ、西園寺が真剣な面持ちで話し出した。

「今、大瀬とも話してたんだけど、今回のことは情報が少なすぎる。 だからといって出入りが禁止されている今日、教師に聞き込みをするのは危ない」
「ゆーちゃんの自殺事件の時は随分お世話になったのにねー」

 半年ほど前、学校のトイレで同級生の女子生徒が自殺事件を起こした。その時は大瀬が上手く友達のフリをして、事情を聞く教師から逆に色々聞き出し、自殺に至るまでの本当の理由を突き止めた。だが今回はその手がつかえない。下手をすれば学校側全てを敵に回す可能性もある。

「でもこんな事件、西園寺が放っておくハズがない」
「もちろん解明クラブの名に傷がつくしね」
 クソ偉そうな言葉を吐いて、西園寺はイスの背もたれに身体を預けた。 西園寺は自分の気の済むところまでやらなければ機嫌が悪くなる。 一番の信頼を置いている森塚にまで素っ気なくなるだろう。
 問題は真相をどう突き止めるか。 教師を丸め込む必要がある。だがその手はすこし危険かもしれない。 西園寺は後ろに山積みになっていた新聞を引っ張りながら言う。

「8月21日、事件当日からちょうど2ヶ月だ。 いくつか報告がある。まずひとつ、学校側は訴訟に負けるという見解が出された。 課せられる慰謝料で、多額の借金を負うだろうな」
「じゃぁ・・学校はやっぱ解体?」
「ううん。解体はないハズ。統合・吸収が妥当でしょ」
「借金問題なんて学校、名前も残らないだろうな」
「うちの学校もとうとう廃校かー」
「話を戻そう」

実感なんてまるでゼロの大瀬に続き西園寺が待ったをかけた。

「借金沙汰になればマスコミが今以上に騒ぎ出し、学校側は何らかの会見を開かざるを得なくなる」
「でも会見って・・生徒は潜り込めなくない?」
「あたしが最初に事件を流した新聞社、あそことは話がついてるの」

パス貸してもらうんだ、と嬉しそうに言う大瀬。 西園寺も頷き、二つ目の報告を口にしようとして。




ちりん。




 鳴った高音に一同はドアに視線を跳ね上げた。 西園寺と森塚が風鈴を改造して作った道具で、この部室に近づく者がいたら鳴るように、一番近い階段に糸を張ってある。そこは普段の見回りでは通らない階段である。 メンバーは跨いで歩くのが常識になっているが、糸の存在を知らない誰か――――教師はお構いなしに踏むだろう。 その風鈴が鳴ったということは、ここに向かっている者がいるということ。 暗黙の了解でロッカーに隠れようとする一同に、西園寺は机の上を見て判断した。

「新聞を見られればここが拠点になっているとバレる。出た方が良いだろう」

 連日新聞を持ち合わせている。重要な記事をファイリングしてあるのが唯一の救いだ。 青いファイルをカバンの中に押し込み、荷物を手早くまとめる。 その間に新城が大量の新聞をロッカーの中に入れて鍵をかけ、森塚は風鈴を外してカモフラージュし、 大瀬は黒板を消して『祝☆夏休み』の文字を書き、葛木はゴミを纏めて手に持った。 まるで夏休みには誰もこの部屋に入ってなかったように見せかけ、5人はドアをくぐった。

「次は予定通り来週の火曜だ」
『了解!』
「そうと決まったら・・逃げろォ!!」

西園寺解明クラブ。今日も真相解明のため走り回ります。








学園モノ第2弾。
西園寺くんを書きたいだけの為に作りました。
ずっと前に書いていた10年後の彼らの話が大元です。
ゆーちゃんの自殺事件が伏線になってるんですが・・
ミステリーに挑戦したため挫折orz
頑張りますー(泣)



20060818