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Cuidado!
「おはよー!おとーさん!」 「ああリタ、おはよう」 穏やかな朝。 いつものように1階にあるお店に下りていき、あたしはおとーさんに声をかけた。 「それにしても…昨日の嵐、すごかったね」 「そうだなー。まぁ、もう大丈夫だろう」 カウンター横の窓から外を見れば、空は綺麗に晴れている。 だが、昨日は1日中大嵐に見舞われ、とてもじゃないが外に出られない気候だった。 そのため、店も閉め、ずっと家にいたのだが―――― 「あれ、今日はまだ来てないんだ」 何のことではない、ヒートとディライトのことである。 毎日、あたしが起きてくるよりも早くここにいるのが日課となっていた。 珍しいこともあるんだね、と言いかけたあたしより早く、おとーさんが言った。 「あの2人は一昨日まで。昨日、わざわざ嵐の中来てくれてな。お世話になりましたって言ってったぞ」 「へぇー…そうだったんだ」 ずっと部屋にこもりっきりだったため、2人が来たことは初耳だった。 「お前によろしくって」 「よろしくも何もないと思うけど…」 そうか、行っちゃったのか。 この1週間、何だかんだで楽しかったな。 「じゃぁ、配達に行ってくるな」 「ほーい。いってらっしゃーい」 荷物をまとめたおとーさんに手を振ると、おとーさんは店を出て、町の中心へと歩いて行った。 ひとり店に残ったあたしは、静かな空間で2人のことを考えていた。 何をやるにも異国風だった2人。 きっとこの島の人ではない。 ――そーいえば…あの耳…一体何だったんだろう…―― 他の島には、あんな奇妙キテレツな人間が住んでいるのだろうか。 それに加えて、何故あんなにも伝承を知りたがっていたのか。 考えればおかしな話である。 人の家に転がり込んでまで伝承を求めるなんて、ちょっと異常すぎる。 ――まぁ…うちは店手伝ってもらったから助かったけど…―― 伝承の内容に、何か秘密が隠されているのだろうか。 「…嵐…」 昨日の大嵐。 海の荒れが収まらず、今日はまだ船は出てないハズ。 もしあの2人が本当に異国人ならば、どうやって海を越える? ――あの2人…まだここにいる…!―― シャンデからは出ていない! あたしは急いでペンを取り、おとーさんに走り書きを残す。 カギを閉め、店の表示をくるりと変え、Closeにしてから。 あたしは2人を探すべく、海岸へと走り出した。 貿易用に整備された港を抜けると、ひと気が一切ない砂浜に出る。 シャンデは比較的新しい島国で、まだ整備されていない場所――――中には危険で、立ち入り禁止と なっているところもある。 ここもそのひとつ。 言わずも、レースの伝説の舞台となった砂浜。 ちょうど今は干潮が重なっていて、露出の多い砂浜に、昨日の嵐で流されてきた色んな物が落ちている。 異国から流れてきたそれを横目に、あたしは歩を進める。 ――懐かしいな…―― 4年前の事件が起こるまでは、学校の友達とよく遊びに来ていた。 レースの伝説は本当か分からなかったし、友達と遊べば怖くなかった。 だが、今になって1人で歩いてみると、賑やかな港と違いすぎる静けさがすごく奇妙。 立ち入り禁止を示す柵につけられていた鍵は壊されていて、確実に誰かが侵入した形跡があった。 2人を探してこんな所まで来たが、人っ子1人いず。 あたしの考えは違ったのかと、引き返そうと思った矢先。 「―――あ、声…」 何かが聞こえた。 それは岩の多くなってきた左手奥の岩の向こうから。 レースの伝説が本当なら、レースや4年前の女の子が行方不明になったのはこの辺。 ちょっと行きたくない気もする。ううん。すごく行きたくない。 しかしその反面、こんな所で何をやっているかも気になる。 少しだけ立ち止まり、どうするか考えて―――― あたしは意を決し、声の聞こえる方へと歩きだす。 ――気になるし!違ったら引き返せば良いんだもん―― 徐々に明確になる声。数は複数――――恐らく3つ。 こんなところで話す話題ってどんなもんよ、と心の中でツッコみ、 あたしは大きな岩の陰に隠れ、その声に耳をそばだてた。 「確かにあのお方が息の根を止めたはず…どうやって生きのびた?」 女の声。 話の内容に、あたしは思わず目を大きく開けた。 ここは違ったらしいと、一歩身を引いたとき。 「色々あってな。まぁ、望んだことじゃねぇけど」 聞こえた声は――――紛れも無い、ヒートの声だった。 戻ろうとしたことを忘れ、あたしはその場に立ち止まっていた。 あたしはそっと岩陰から顔を出し、ヒートと…ディライトの後ろ姿をしっかり見た。 ――どういうこと…?―― 会話の内容。物騒な言葉の女の人。 聞いてはいけないようなことを、あたしは聞いてる気がする。 「腑に落ちない…けど、生きていたのなら私が殺すまで。どうせブツも持ってるんでしょ?」 彼らと対峙するように立っているのは、やはり女。 歳にして20代後半くらいだろうか。 えらく細い女で、深紅のショートカットの髪と、同色の瞳が艶美な印象を醸し出している。 「持ってますよ。でもあなたには渡さない…カーディナル。僕らはもう、決めたんだ…!」 強い調子で返したディライト。 言い終わるや否や、ディライトは懐から何かを取り出し、それまで話していた女に襲いかかる! ――ナイフ…?―― ディライトの手には、鈍く光るナイフのような短剣が握られていた。 「…せっかちなのね。殺されるっていうのに…。 これで私も、アスフォデル様に心から愛してもらえるわ…」 カーディナルと呼ばれた女は身軽に跳んで交わすと、右手に黒い何かを持ち、大きく振り上げた。 虚空を横切り、バシンッ!と大きな音を響く。 ――鞭…!―― 拷問とかで使われそうな、一般生活を営む上ではほとんど必要のない物。 ビュンビュン唸るそれを、ヒートとディライトは大きく下がって避けていた。 ――ありえない…!!―― 危険すぎる女。 これは警備隊に通報するべきだと判断したあたしは、岩陰から身を離し―――― ゴッ! 次の瞬間、半分が砕け散った岩の破片が、あたしの頬をかすめた。 ――え……―― 足を止め、肩越しに振り向いた。 「…あら、お客様?」 隔てるものがなくなった空間。 カーディナルの嫌らしい微笑みと声は、あたしに向けられていた。 『ッ!?』 驚愕が重なり、それまで背を向けていたヒートとディライトがパッとこちらを向く。 「てめぇ!?」 「どうしてあなたがここに!?」 驚いた2人の声。 カーディナルを睨みながら、あたしの方へ駆け寄ってくる。 「何やってんだよ!?」 「あー…えーと……散歩!」 「絶対違うだろ!」 目を反らして言ったあたしに、間髪を入れずにヒートが突っ込んだ。 「うるさいなぁ!!あんた達を追ってきたのよ!何か悪い!?」 開き直ったあたしの言葉に、ヒートはそれまでの勢いとは比べ物にならないほど真剣な表情で言った。 「…俺たちを追ってきた…?」 2人がわずかに困惑を交じらせたのに気付かず、あたしは依然、強気なままで返した。 「そーよ!だからあんたたちに―――――!」 「何でついて――――」 「危ない!!」 あたしを遮ったヒートの声を遮り、ディライトが声をあげた。 その言葉の意味を理解するよりも早く、あたしはディライトに強く突き飛ばされていた。 ぱしィん! 次いで聞こえる、響き渡る鋭い音。 顔だけで後ろを見れば、ヒートとディライトがカーディナルを睨みつけている所だった。 「邪魔よディライト。こんな所を見られたからには、生かしておくわけにいかないわ」 「罪のない一般人を殺すのが、お前らの生き甲斐だからな」 「でも、この人を見殺しになんてできません。僕らの知り合いなんです」 真剣な面持ちであたしの前に立ったディライト。 それはまるで、あたしをかばうかのように。 …この際、岩に激突しかけたことは水に流す。 カーディナルはあたしを見て言った。 「あら、知り合い…?それは本当なのかしら?」 「ほ…本当だし…!あたしの名前はリ―――」 名乗ろうとした口が、後ろにいたヒートによって塞がれた。 「むむむ!?」 「バカ…熾団の前でフルネーム名乗るか普通…」 ――熾団…?―― どこかで聞いたことのある名前に、あたしは口が解放されてから思い出した。 「熾団って…もしかして、殺人集団の…!?」 どこか、ではない。 熾団が事件を起こすと、必ずと言っていいほど新聞のトップ記事となるのだ。 殺人集団―――熾団。何の目的があるのか分からないが、熾団は人殺しの集団としてその名を諸国に轟かせている。 その熾団が、何故ここに…? 「小娘は知ってるみたいね。そう、熾団は殺しのプロとも恐れられる――――」 「殺しにプロもクソもあるか」 冷たいヒートの言葉。 彼は熾団の何を知っているのだろう。 誰か大切な人が―――友人が、家族が殺されたのだろうか。 緊迫した状況に、あたしは今更ながら、自分の甘さ―――ここに来たことを後悔していた。 「ヒート、落ち着いて」 言ったディライトの、後ろに回された左手。 カーディナルには見えないように自分の体を壁にし、小指と親指を立てた。 あたしがそれに気付いたのと同時に。 「わかった」 ヒートの応え。 次の瞬間、ヒートはあたしの腕を力いっぱい引っ張り、カーディナルから離れるように走り出した! 「ぅわっ!?何!?」 「黙って走れ!」 「でもディライトが!!」 「心配すんな!後からついてくる!」 後ろを振り向けば、少し離れてディライトがカーディナルと対峙している所だった。 あたしはただ、ディライトが心配なのだ。 話の内容からして危険すぎる上、相手は女といえど、鞭を使い慣れた大人。 「ヒート、やっぱり戻ろうよ!ディライトが危ない!」 「バカ言え!先に行けって言ったのはあいつだ!」 「そんなこと、一言も――――」 言ってる最中で、あたしはあの手が合図となっていたことにやっと気付いた。 恐らく、あたしを逃がすために囮になったのだろう。 「そっか…あの時…!」 「あの合図を出して、ディライトが来なかったことはねぇ。俺はあいつを信じる!」 強い信頼。 横を走るヒートの目には、迷いなど微塵も無かった。 「…わかった」 ディライトの後ろ姿を目に焼き付けてから。 あたしは正面に顔を戻し、足に力を入れた。 危ない!
20080921 |