ver de nuevo     

「そんなことがあったんだよ!!」
 グッと拳を握り、熱弁を振るうあたし。
 あの後、2人の姿を追いかけたが、見つかることもなく、しょぼくれて家に帰っていたとき、 たまたま学生時代の友人とバッタリ。
学校は去年卒業したばかり。
そろそろ1年が経つ頃だが、あたしが再会したその子は、絵の勉強をするため、 島の外に出たまま会う機会がなかった。
 その子のシャンデの実家では、知る人ぞ知るおいしい食堂を経営しており、あたしと同じ、商人の娘だ。
お茶をしながら、懐かしい学生時代の話に花を咲かせ終わった後、あたしは先の万引き未遂の話をしていた。
「長棒も上手くかわされたし…かなり不満!」
 これでも、選択体育の授業での長棒さばきは、学年の上位者に入っていた。
かなりの自信もあったし、おとーさんもあたしの腕を信頼してる。と思う。
 だが友人―――エミラはお茶を一口飲んでから言った。
「でもお金置いて行ったんでしょ?しかもお釣り受け取らないで」
 そう。最後の茶髪男の言葉通り、お札が一枚、陳列棚の上に置いてあったのだ。
そもそも―――何を持って行ったのか、一応予想はついているのだが、確信があるわけではない。
それ故、お釣りも渡せずにいる。
 万引き未遂と思いきや、足長おじさん化。
 ――…悪い人なのか良い人なのか…――
追いかける時、握ったままだった、受け取った紙幣を透かしながら。
「そうだけど…コレ偽物だったらどーしよ…」
 可能性はなくはない。同じ商人の娘なら、この気持ちが分かるはず。
 あたしの思惑通り、エミラはこくこくと頷いた。
「…見た所は普通だし…逆にこれ以上巧妙だったら嫌よね…あ、そう言えば店番、大丈夫なの?」
「一応close出してきた…け…ど…」
 うちの店の心配をしてくれるエミラの言葉に、あたしは声を上げて頭を抱えた。
「うー…おとーさんに怒られる…絶対に怒られる!」
 はぁ、と息をはいたのと同時に、エミラが注文していたケーキが運ばれてきた。
「こちら、ショコラショートになります」
 ちょうど空になったカップに、あたしはそのウェイターに声をかけた。
「すみません。紅茶のおかわり、おね――――」
「かしこまり――――」
 顔を上げたあたしの声と、振り向いたウェイターの声が切れた。
 黒い髪。目つきの悪い同色の瞳。頭にはオレンジ色のバンダナ。
この顔、見たことある。
「…あああ!!?万引きみす!?」
 あたしが指をさし立ち上がると、あたしの口に持っていたケーキを押し込み、彼はあたしの腕を引いた。
「お…お客様…!こちらへどうぞ!」
 ぐぃぐぃと引っ張られながら、あたしは懸命に口の中のケーキを消化する。
そして連れてこられたのは―――――
 かちゃん。
 出入り口とは違うドア。
そこを出るとひと気はなく、木箱が数個散乱していた。
 ――…勝手口…裏口だ!――
 げほっげほっ!
「普通、働いてる最中に万引き呼ばわりするか!?」
 げほっ!
「それに、金は置いていっ――――おい…大丈夫か…?」
 咳の止まらないあたしに、男はようやく気付いたらしい。
だがあたしは、男の言葉に首を振ることすら出来ず、とにかく咳き込む。
 ――ヤバイ!マジで苦しいから!!――
 ケーキが危ないところに入ったんだって!
 それを見兼ねてか、男はイラつきながら勝手口の中へ姿を消すと、 しばらくしてコップを片手に戻ってきた。
「ほらよ」
 差し出されたコップに手を伸ばし、あたしはこくこくと音を鳴らして一気に飲み干す。
そして。
「何すんのよ!!?」
「お前礼くらい言えないのかよ!?」
「ケーキを押し込んでくれてありがとうございました!!」
「しゃべって早々嫌味かよ!」
「本当なんだから仕方ないじゃない!」
「まぁまぁまぁ…落ち着いて、2人とも」
 聞こえた新たな声に振り向くと、今しがた裏口から出てきたのか、木箱に座るウェイターの姿。
明るい茶色の髪には、制服なのか、黒髪男と同じバンダナが巻かれていた。
 ――この男…万引き犯の片割れ!!――
 偶然の再会に内心で驚いていると、茶髪の男は黒髪に言った。
「ダメだよヒート」
「ディライト…」
 いつの間に、と睨みを利かせる男。
 ――もしかして…仲悪い?――
 何やら喧騒が始まりそうな雰囲気の中、ディライトと呼ばれた茶髪の男は、あたしを見て穏やかに言った。
「すみません、ちょっと熱くなりやすい性格なんですよ」
「はぁ…」
 何故か敬語を使っている。やっぱり、年の頃にして年上。それでも3つは離れていないくらい。
 あたしがそんなことを考えているとは知らず、ディライトは言葉を続けた。
「さっきは失礼しました。なにぶん、とても急いでいたので」
 苦笑を浮かべるディライト。
 ――急いでって…あ…――
 そういえば、この2人に関しては少し奇妙な節があった。
今はバンダナをしているが…黒髪男、ヒートの、耳。
「それについては…まぁ…あたしも面倒なことは避けたいし…」
 本当はいけないのだが、お金は一応もらったのだ。
 ――未遂だし…多分潰して平気…かな…?――
 無理やり自分を黙認させると、あたしはあのことについて触れてみた。
「それより…あれって、何だったの?」
 ビッと指を差したのは、ヒートの頭部。
その瞬間、2人の顔色が露骨に変わった。
まるで、うわー覚えてるよこの女、と言わんばかりに。
 ちらり、と互いに目を合わせ、2人はぴくん、と眉を動かし――――
「はっきり言ってキモいよ…?」
 率直な感想を言ったあたし。
 だって考えて欲しい。
学校を卒業した年齢の男が、喜んで動物の耳をつけているのだ。
それも帽子に隠して常備している。
 ――キモいっていうかキショいっていうか…――
 うわ。よくよく考えてたらもっと気持ち悪くなってきた。
他人の趣味に文句はつけたくないが、さすがにこれはキツい。
 あくまで忠告をしようと口を開けたあたしより早く、ディライトが声をあげた。
「つけたくてつけてるんじゃないんですよ」
 微笑を浮かべたディライト。
だけど、目は笑ってない。 どこか寂しげなその表情に、あたしは思わず言葉に詰まった。
「え…?」
 意外な表情、そして言葉。
 自然と目がいく、ヒートの頭部。
「誰にも言わないって、約束してくれますか?」
 何か重要なことを言おうとしているのだろう。
 だが、そんな彼に反応したのは、ヒートだった。
「ディライト!」
「仕方ない。この人はもう、見ちゃったんだから」
 諦め、妥協。
 ――何なの…この人たち…――
 そこで初めて、あたしは2人に本当の不信感を持った。
 ディライトは、何を言おうとしているのか。
「噂を見くびるんじゃねぇ!すぐに広がる!」 「ヒート…わかったよ。でも、聞くだけ聞いてみるよ?」
 ディライトはヒートの強い反論にやめたらしい。
 何の話をしているのかさっぱり分からないあたしに、ディライトは優しく声をかけた。
「サーガを探しているんです」
「サーガ?」
 この島の言葉ではない。
 ――確か、授業でやったことのあるような…ないような…――
 聞きなれない言葉に、あたしは首をかしげた。
 それに気付いたヒートが、言葉を付け加える。
「数日前、他のヤツにも聞いたが、誰一人として教えてくれなかった。
ちょうど時期がどうのって言ってたな…。何でもいいんだ。古代の噂とか…昔の話とかだな」
「サーガ…ああ…伝承ね」
「伝承…伝説?神話になるのか?」
 思い当たったあたしの言葉に、連想ゲーム並みに話が反れるヒート。
教えてくれなかったというか…サーガって言わないし。
「伝承だってば…単なる言い伝え」
「でも町の人たちは信じて、話したがらないんでしょう?何でも不吉だとか…」
 何人かに聞いたのだろう。
それでも誰も教えてくれなかったというのは、ちょっとタイミングが悪かっただけで。
 ディライトの真剣な声に反して、あたしは全く気にしないように言った。
「根付いちゃってるんだと思うよ。あたしなんかは半信半疑だけどね。
占いとかと一緒じゃない?都合の良い時だけ信じるって」
「それで…そのサーガは?」
 話を促したディライトに、あたしはサーガという響きに異国感を感じつつ、口を開きかけて。
 ――そういえば…――
 この2人、仕事サボってる。
「サーガも良いけど…あんたたち、仕事はいいの?」
『あ…』
 声をハモらせた2人に、あたしはやっぱり忘れていたかと息をはき。
「仕事の時はちゃんと働く!って…あたしも今は店閉めてるんだけど…」
 おとーさんがまだ帰っていないのをこっそり祈って。
「あたしも店に戻る。 もしどうしても…なんだっけ…何とかを聞きたいなら、仕事終わってからうちの店に来なよ。
ただし、日が沈むと忙しくなっちゃうから、間に合わなかったら明日ね」
 斜めにかけたお釣り入れポシェットに手を突っ込み、じゃらりと硬貨を出す。
「これさっきのお釣り。ちゃんと渡したからね」
ディライトは受け取りながら、驚いて。
「何を持ってったか分かるんですか?」
「買ってったか、ね」
 自信はなかったが、彼らの話を聞いて確信を得た。
訂正をしてから、あたしは言葉を続ける。
「もちろん。あたしはあの店で育った商人の娘だもん。 ひとつ、シャンデを含む近海地図がなくなってた」
 笑みを浮かべ、あたしは2人に背を向けた。




再会     




20080303