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空は綺麗に晴れた。 遠くに広がる一面の海。 耳に残る海の音。 そう、ここは港町――――シャンデ。 Bienvenido a un pueblo del puerto. 音を立てないドア。 誰もいない明るい店内。 お昼過ぎの暖かさと3拍子が揃ってしまえば、答えはもうひとつしかない。 「ヒマー…」 カウンターに頬杖をついて、あたしは不満たらたらで声を上げた。 別に誰かに対しての文句ではない。 店内には元より客は来ていない…いや、午前中にお得意さんが3人ほど来た。 ――あーホントに暇…―― 伸ばした金色の髪先を指で遊びながら、あたしはぽけーっとお得意さんのことを考えていた。 1人目は開店1時間後くらい。週に1回必ず洗剤を買いに来るおばちゃん。近所に住んでて、家で定食屋を営んでるらしい。 2人目は親子。それも母親と息子(推定6歳)。 不定期ではあるが、日用雑貨…スポンジとかコースター、コップ、食器、歯ブラシ、ハサミ等々、 さまざまな物を買っていく。 今のところ母子の父親は見たことがない。 ちょっとは気になるが…まぁ…あたしが首を突っ込んでも仕様がないことで。 3人目はお爺ちゃん。グロッケンじーちゃん。 おとーさんの前でこう呼ぶと、お客さんにむかって、ともの凄く怒られる。 グロッケンじーちゃんは、あたしが物心ついたときからウチを利用してくれる、 もっとも古いお得意さんの一人。 少し痩せた小柄なおじいちゃんで、いつも笑いながら色々な話をしてくれる。 それこそ本当のお祖父ちゃんみたいで、あたしはその話を聞くのが大好きだ。 ずっと前は船乗りだったらしく、その頃の話をたくさんしてくれる。 昼になったからと帰ったグロッケンじーちゃんの後は誰も来ていない。 ウチは元々、日用雑貨を扱うローカルなお店。 それ故、今ではお客さんの中で見たことのない顔はない。 平日の昼間だからこそ、余計にこんなお店に来る人は少ないわけで。 ――おとーさん早く帰ってこないかな…―― 元はといえば、商品の調達とお得意さんへの配達に行ってしまったおとーさんのせいで、 あたしが店番なんぞやっているのだ。 しかし…まぁ、あたしも去年学校を卒業し、どんな進路か悩んだ末、結局おとーさんが一人で 切り盛りしているこのお店を手伝うことにした。 というのも。あたしは今、おとーさんと2人暮らしをしている。 別に両親が離婚をしたわけではない。 数年前から、おかーさんはシャンデではない、どこか遠くの島で仕事をしているのだ。 いわば出稼ぎ。だが本人は出稼ぎに行っていると言うよりも、仕事に生きると言っていた。 その言葉通り、最近では仕事が立て込んでいるのか、なかなかここに戻ってこない。 もう4,5年は会っていないだろうか。 「ふわぁ……」 大きな欠伸をひとつすると、あたしは少しも迷わずにカウンターに伏した。 どうせ客は来ない。 おとーさんもまだ帰ってこないだろう。 それなら少しだけ、寝てしまおう。 そう思った直後、不思議なほど自然に、あたしの意識は眠りへと落ちていった。 「いいじゃねぇか。持ってちまおうぜ」 突如、耳に入り込んできた声。 男のその声で、あたしは浅い眠りから目が覚めた。 普通ではないその内容に、あたしはうっすらと目を開け、今の状況を考えていた。 「でも…」 二つ目の声。 こちらは先ほどの声よりもやや控えめ。 恐らく――――2人の男が、うちの商品を盗みかけている。 一人はやる気満々だが、もう一人が快諾しないとかそんな感じ。 もちろん、あたしだってそれを許すつもりはない。 「これくらいで潰れるような店じゃねぇって」 ――こいつら…人の事だと思いあがって…―― ちみたち、そうやって店は潰れていくんだよ。 間違いなく万引き。 あたしは寝たふりをしながら、そっと机の下に置いてある長棒に手を伸ばし――― 「行くぞ」 やる気満々男の声を合図に、あたしはがばっと身を起こし、一人の男に殴りかかる! 「!?」 パッと振り向き、すんであたしの長棒を避けた男。 一度身を引くと、あたしは驚愕の表情を浮かべる男に言った。 「うちの店で万引きとはいい度胸じゃない?」 見れば、やっぱり男2人組。 奥に茶色い長髪の男。 手前には、あたしが仕掛けた方―――黒髪の、いかにも目ツキの悪い男。 いずれも年頃はあたしと同じか…少し上か。 「仕事中に寝てるてめぇが悪ィんだろ!」 言い返す――というよりツッコミに近い形で反論した黒髪。 声的に、やる気満々だったのはこっちの男だろう。 カッ、と長棒を床につけ、あたしは悪気のない男に言った。 「ここの町には、黙って持っていくような野蛮な人はいないの!人徳があんのよ!人徳が!」 「客に棒突き付けるような女が?」 「万引き犯には厳しくしてるのよ!」 言い終わらないうちに一歩踏み込み、あたしは長棒を振るった! びゅん! 音を立てて唸る長棒。 しかし男はきれいに避けると―――― 「ヒート!!」 横からかかった声に視線をずらせば、連れの男が柄の長いホウキを放り投げていた。 ぱしっと見事にそれを受け取ると、男―――ヒートはあたしと対峙する。 「言っとくけど、商品に傷つけたら弁償してもらうからね。そのホウキを含めて」 「お前…どこまで商人根性入ってんだよ…?」 「当たり前でしょ。あたし、商人の娘だもの」 にっ、と笑みを浮かべると、あたしは自らヒートに仕掛ける! ガッ!ガッガッ! 多岐にわたるあたしの攻撃を受け流すヒート。 ――こいつ…やる!―― だが、なかなか攻撃しては来ない。 …女に手を上げない主義なのだろーか? 「傷つけたらって…傷つけてるのはてめぇだろ…?」 「な!?」 確かに、ヒートは防御に徹し、一方的に攻撃しているのはこっち… この状況をおとーさんに見られたら、絶対確実に120%怒られる!! ――マズイ!マズすぎる!!―― 「それは許せん!!」 「なっ!?」 横に薙いだ長棒が、ヒートの帽子をわずかにかすめた! 「ちぃ!」 おっしぃ、と声を上げかけて――――― 「な…何!?」 あたしの長棒がさらったヒートの頭の上には、黒く―――それでいてなんとも柔らかそうな――― ピンとたつふたつの耳。 それは明らかに動物の耳だった。 「ヒート!!」 茶髪男の慌てたような声。 だが当の本人は気にすることなく、ホウキを振り上げ…って!? 「しまっ―――!!」 ぶんっ! 耳元で唸る音に、ギュッと目を閉じたが…予想した衝撃はない。 代わりに聞こえた声がひとつ。 「代金置いときましたよー」 「…はぁ!?」 慌てて目を開ければ、見えたのは店を出て走る二人の後ろ姿だった。 港町へようこそ
20080226 |