追伸:また手紙を書きます。








いつか死んでしまう、君へ









君がそれを打ち明けてから、365日が経ちました。









朝も昼も夜も、涼しい早朝も、朝寝坊のブランチの後も、
世界がオレンジ一色になった夕暮れも、 星を見ながら語り合った深夜も。
そして君が打ち明けたあの時も。白い煙を漂わせ、同色の細い棒を咥えていた。



吸い出したのは確か19。似合わないと思いっきりバカにしたら、珍しく強く反抗された。
単なる興味本位だと思っていたから、身体に害をきたすほど吸うとは思わなかった。
たまに臭い煙いと向こうへ追いやった。あまり好きじゃなかった。それ自体も、それを好む君も。
だけどある日を境に本数が跳ね上がった。君のお姉さんが亡くなられた日だった。
天涯孤独になった君は、私に迷惑をかけまいと一身に全てを請け負った。
何をするにも自己完結が基本になった。他力など最初から知らないようだった。
以来、いつ見ても君はそれを右手に持っていた。それも決まって火がついたまま。
その行為が、唯一君に残された現実逃避だと知ったのは、5度目かの命日だった。
不覚にも、君の口から。逃避だと自負していた君は、命日だけは吸わなかった。
そんな事不可能だと思っていたけど、君は見事に1日限りの禁煙をやってのけた。
そして翌日、何食わぬ顔でふかす君を見た。何度も、何度も。






いつの間にか慣れていた。
むしろ身体の一部になったかのように、それは君から解放されることはなかった。
いや、反対だったのかもしれない。君がそれから解放されなかったのか。細く小さなそれから。
いつだったか、軽い気持ちで聞いたことがあった。本当に死ぬよ、と。
だけど君は笑って言った。誰だっていつかは死ぬんだよ、と。






何かを諦めたのか。幸せが、いつかは崩れる事を知っていて、その先の不幸を見たくないが為に。
君は決めたのだろう。君は去った。ここから。
本当に死ぬみたいだと、こいつに肺を侵されすぎたと、笑って。
いつものように、右手に持った灯を、口に運んで。











君がいなくなってから、365日が経ちました。








私は止めなかった。告知後、入院も禁煙もせず、ここを離れて一人と決めた君を。
君の信念は強く、哲学とも呼べそうなそれを、私が変えられるはずもなかった。
いつだって、隣にいたのは私だったのに。








君のそういう生き方を、私は受け入れた。







君は今何をしているのだろう。
生きているのだろうか。それともこの世にはいないのか。
もう、その命は―――――――

























手紙を折って封筒に入れた。口を閉じて立ち上がり、窓辺に置く。
同じ封書が2つになった。ひとつは君が去って半年後に書いたものだった。
余命3ヶ月の君が、たとえ2年先伸ばしになっても、君はここへは戻らないだろう。
これは私の、唯一の現実逃避なのだ。







幾つかもらった一本をつまみ、君を真似るように右手で持つ。
思い出される、薄れかかった記憶。
けれども君の次に見ていたからなのか、身体が覚えていた。
ライターを取り出し、灰皿に次の一本を出しておく。右手で口に咥え、同じ手で火をつける。
灯る火。窓に映った姿が酷く似合わず、目を反らした。
口には咥えるが、吸いはしない。煙が鼻を通る。苦いあの香りは、1年前と何ら変わっていない。 不思議だ。
君の命を奪ったこれが、君の存在を明確に思い出させる。











少し迷ってから、再び先ほどの手紙をたぐり寄せ、ペンと共に開く。
書き忘れ、というわけではない。本当に今しがた思いついたのだ。
これで最後にしようと思ったのに。それはまだ当分先のことらしい。

















追伸:また手紙を書きます。







もう死んでしまったかもしれない、君へ。
























ひょんなことが切欠で書くことになったんですが、
頃ノ絵は煙草を吸わないので、この手の話に憧れていました。
吸いたいと思ってしまうほど動作が分からなかったので、とにかく友達を視姦観察する。
約3名の(一方的な)協力のおかげで書けました。
ちなみに原案から完成まで約5時間。
直太朗エンドレス再生でした。
20060917