彼を救えるのは私だけだったのかな








目を閉じた。夏にしては冷えた風が過ぎる。大丈夫。震えは無い。 力を失った手から刀が落ちる。軽い音が立って、あたしの手は宙をさまよった。 この手をとってくれる人がいなくなったよ。もう私は一人なんだ。手は虚空をさまよい、何かを掴もうとして、私は地面に身体を落とした。


こんなことになるハズじゃなかった。いや違う。どちらかがななければならなかった。 私か彼か。彼を止めると決めたのならそれくらい覚悟しなくてはならなかった。 信じられない。信じたくなくて目を開けた。残酷な運命だと思った。倒れた彼は目を開けることなく 息もしていない。本当なんだ。彼は死んだ。私がこの手で殺した。


闇に落ちるのは何より早いと笑った声。どうして落ちてしまったの?は目的じゃない。 相容れない立場なら交わらなければいい。どうして決めてしまったんだろう。私は闇から救い出したかった。前みたいな関係に戻れなくても、彼が闇にいるのは嫌だった。救い出さなきゃと思った。


そっと倒れた身体を見る。彼はどこに行ってしまったんだろう。ここにはいない。ここには身体だけしかない。目を開けない彼の頬にそっと触れた。ああ、まだ温かいよ。本当は生きてるんじゃないの? そう思ったら急に手が震え出して彼の顔が霞んできた。泣かないよ。泣きたくない。それは彼のを受け入れることになる。彼の頬にはがついた。あたしの手についていた彼のだ。彼が生きていた証拠も、 声も、香りも、笑顔も、手も、温もりも、全て消えてしまうんだ。本物の彼がいなくなるんだ。


嗚咽が漏れた。どうしようもなく哀しい。私が殺したの。彼を終わらせてしまった罪悪感を背負う。私は彼に恋してたんだ。
最後に一緒に笑いたかった。これはいけない願いだったんだね。








敵同士って切ないよねという妄想から。
罪悪感どころじゃなくて虚無感を感じるんだろうな。
黒と赤ってちょっと怖い。闇と死にピッタリの色。
20060810