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ダンダンダンッ! 銃声が廃墟ビルに響き渡る。今しがた撃った銃は弾が切れた。いったん退いたのを良い事に、後ろを確認しながら足を走らせた。一気に階段を駆け上る。息が上がるが気にしていられない。体当たりするようにドアを押し開けると屋上に出たのだろう。街の灯りを眼下に夜空が広がっていた。だだっ広い屋上の端まで走るとくるりときびすを返した。 初めて息をつく。最近ばっさり切った髪が顔にへばりつく。こうなるなら切らなきゃ良かった。といっても腰まで伸びた長髪が邪魔で切ったのだが。 左手の銃を口にくわえ、右手に持つ弾倉に弾を詰めながらヤツを待つ。それにしても夜襲とはヤツも考えた。夜は視界が悪くて銃口が見えない。よくハンターが昼行性の健康型だと皮肉られるのを耳にするが、 それは大きな間違いだ。夜は獲物も見えなければ狙いも定め難い。弾もタダではなく決して無駄撃ちなどしたくもない。翌日になれば日も昇り、ついでに身体機能や能が活発になるというだけである。そもそも獲物の情報が送られるのが遅い。これは国が抱える100を越えた全ハンターが思っているだろう。 ――・・!―― 音もなく気配が現れた。それまで考えていた思考を全て捨て暗闇に目を凝らす。相変わらず夜に紛れるのが上手い。以前は闇の世界にいたと噂を聞いたことがある。もっとも本人に問いただした所ではぐらかされるのがオチなんだろう。獲物のことは徹底的に把握したがるクセに自分のことはやたら切りたがる。関係性を持たれるのが嫌なのだろうか。今考えればヤツの過去はそれくらいしかわかっていない。3年も一緒にいたのに何ひとつ聞き出せなかった。3年。長かったような短かったようなよく分からない感覚。いや期間としては短い。だが何事も長続きしない性格を考えれば相当耐え抜いてきた方だろう。ずっと同じヤツの下に付いてよく投げ出さなかったと自ら感心する。 たった今姿を表したヤツはいきなりかかって来ることもなく間合いを大きくあけて立ち止まった。逃げも隠れもせず、来たかと視線を上げ銃を両手に装備する。 「やっと追いついたよ・・」 「それはご苦労なことで」 「元はと言えば君が逃げるからだ」 「夜襲かけてきたのはそっちでしょーが・・・言ったでしょ?あたしは研修生じゃないの。 これからは一人でやってける。中央政府に独立の書類出しちゃったもん。あとには退けない」 ちゃき、と両手に銃を構える。ヤツを越えるのは無理だろう。何せハンター歴18年の先輩だ。3年目の女が敵うはずもない。だが3年前後の独立は最近では多くなった。30年前は10年間の研修期間は当たり前だったのだと言うが、ハンターの低報酬化を図るため、中央政府は指導係が認めれば新人ハンターの独立を最低2年で許可している。研修2年なんて、指導係がよっぽどのバカか新人が天才かのどちらか。 現在の平均研修期間は5年である。ヤツは分かっていたのだろう。飽きやすい後輩がそんなに長く自分の下に付いていないということを。 「そうだね・・君は成長した。絶対に独立できないと思っていた確信が、最後の最後で覆された」 「勝負の世界はだからおもしろい――――――そう教えたのもあなた」 真っ直ぐな瞳に何を思うのだろう。独立を咎めるのか。 「―――――良いね」 刹那。 身体が勝手に動いた。ヤツの弾が頬をかすめたが構わず引き金を引く。銃身に響く振動で発砲されたことを無意識に確認し、地面に手をついて次の弾を避ける。 本気だ。ヤツはあたしを試してる。 二丁拳銃はあたしの独学。唯一ヤツに通用する 「髪、長いほうが好きだったよ」 「いきなり何?キモいっつーの」 頬を露骨に引きつらせたら標準がずれ、ヤツの時代遅れのテンガロンハットが宙に浮いた。次いで消える気配。 ―――――――マズイ!! 銃を持ったまま背を向け走ると、全速力でフェンスを飛び越え廃墟の屋上から一気に飛び降りる! うわ!思ったより高かった! 「いたたたたたたた・・」 ザッと音を立てて着地する。が、失敗。受け身を取ったが腰を軽く打った。それを抜かせば、下が砂地だったのが幸いして大して怪我などない。すぐに立て直すとヤツの気配を探る。それは意外にもすぐ近くにあった。 真上だった。 「ッ!!」 振り返る間を惜しみ走る。正面に見える建物に転がるように入り、銃撃がおさまるのを待つ。あの状況。おそらくあたしの後を追ってそのまま宙に跳んだのだろう。 ―――なんつー危険なことを・・・――― 下手をすれば足をくじきかねない。いや。それも経験がモノを言うのか。建物から一度顔を出し、反撃したが、ヤツの姿は暗くて見えない。仮に向こうがこちらの居場所を明確に掴んでいるなら、ここに隠れていても仕方ない。だが一方、飛び出せば向こうも何らかの動きを見せるだろうが、返り討ちに遭う可能性もある。どちらにすべきか、と考えていると。 気配は突如現れた。 「その悩みが命取りだよ」 右肩口に硬いものがあたる。 上がる心拍数。へらり、と思わず口元がゆがんだ。 「反則だってば。その早業」 「何とでも。君、それで本当に独立する気?」 「未熟だって言いたいの?そりゃ スッとその場に立ち上がり、自分の二丁拳銃を見つめた。右肩口にヤツの銃を感じながら、思い出す。 「色んなものを見たい。それから、自分の未熟を知ってもっと成長したい」 この3年間新人ハンターの日々は想像を越えた辛さだった。ハンターのこととなるとヤツはすごく厳しくなったし、何度も逃げ出そうと考えたこともあった。しかしそれ以上に、敬意は日に日に募った。研修期間はずっとヤツの狩りを見ているのだ。これで憧れないわけがない。もっと強く――――いつかヤツと並ぶくらい強くなりたいと思っているのに気が付いた。それで独立の書類を出したのである。それをどこかから聞きつけたヤツが、独立できるか否かを試すために夜襲を仕掛けてきたのだろう。そしてこのありさま。だが、まだ諦めるつもりは微塵もない。 「だから」 両手の銃を握りなおし身を引きながら振り返る。ヤツの、わずかだが驚愕の気配を感じつつ、振り向きざまに足を大きく振り上げ、ヤツの拳銃を思いっきり蹴り上げる! 「しまっ――――!」 手から落ちた銃を宙で受け止めようとするヤツ。そうはさせない。腕をクロスさせ、左手の銃でヤツの頭を、右手の銃でヤツの手中に戻る直前の銃に標準を合わせる。右手の引き金を引いた。狙いは命中して、ヤツの銃は向こう側へ吹き飛んだ。 「こっちも撃って欲しい?」 ヤツの頭にぴたりと銃口をつけた。沈黙が流れる。吹き飛ばした銃に届かなかったヤツの手が、 いつの間にか首の後ろにかかっていたテンガロンハットを掴みかぶり直した。ヤツにもう戦意は ない。何を発すのかと、心臓が高鳴る。 「勉強してきな。誰かにつくでも独学でも良いから」 「・・・ってことは・・・」 「――――独立おめでとう」 ぱっと顔が輝いたのだろう。それを見て笑い出したヤツがちょっと気に入らなかったが、それでも嬉しいという気持ちに変わりはない。念願の独立だ。それは、一人前のハンターとして認められたということ。二丁拳銃をしまうことをすら忘れ声を上げて喜び回る。3年。やっぱり長かったのかもしれない。だがこれで新人というレッテルから解放され、どんな獲物だって追うことが可能になり、更に報酬も研修期間の安値ではなくなる。そして何と言っても精神的に飛躍したこの気分。そんな中、横で何かを思い出したようにヤツが声を上げた。 「もし誰かにつくんなら・・僕の名前は出さないでね」 「え、何で?」 そこでやっと銃のことを思い出し腰にしまいながら聞くと、ヤツは恐ろしいほどにこやかに言った。 「二丁拳銃は僕の担当じゃないから。僕が指導力のないハンターだって思われても困るし」 「それって・・・下手だって言ってるんだよね・・?」 ヤツの返事を待たずに、たった今差したばかりの二丁拳銃を素早く構えた。ヤツの笑顔に頬が引きつる。今度は標準をしっかり合わせた。絶対外さない。何でさっき殺っておかなかったんだろう。 「 3年目の女 20070221 |